◆文明、文化はやはり多地域起源説・・・

(ふたつ上の記事で)人類はアフリカ単一起源だとしても、文明文化は多地域起源でなければ心情的にもしっくりこないなどとわけのわからない記事を書いていたのですが、世界各地の文明文化の起源と伝播の経緯をダイナミックに解説してくれている本に出会いました。

ジャレド・ダイアモンド著、題して「銃・病原菌・鉄」、副題が"一万三千年にわたる人類史の謎"で上下2巻の大作ですが感動的な本です。

たとえば農業は作物の遺伝子分析等で辿っていくとメソポタミア、中国、中米、南米(アンデス)、合衆国東部の5ヶ所が起源。
そして文字の起源を辿っていくとメソポタミア(シュメール)、メキシコ(マヤ)、中国、エジプトが独自の発祥地のよう。
それ以外の地では伝播を受けて進化したものだがその伝播には特徴がある。山脈、砂漠、気候帯といったものが伝播の妨げとなるため大陸の中では縦には伝播しにくく横に拡がる。したがって横に大きく広がるユーラシア大陸は伝播には有利。

文明の誕生は発明や発見といった一瞬の出来事ではなく、数千年をかけて少しずつ芽生えて育っていくもので、栽培や飼育に都合の良いものをかぎ分けることからスタートする。したがって植物にしろ家畜のもとの野生動物にしろ都合の良い生物が生息している地域であることが先発隊の条件であり、その人種が優秀ゆえに生まれたわけではない。そこでは自然淘汰では不利な変異種でも人類に都合の良いものを栽培することで人為的な淘汰が進み野生種がいつしか栽培種となる。

狩猟生活で自然を食い尽くす⇒それが栽培の誘因となる⇒定住が可能となる⇒効率化で余剰生産が生まれる⇒余剰で統治機構や軍隊や道具をつくる専門家を抱えることができる・・・こうしたスパイラルで文明や文化は生まれ、進化し、かつ伝播していく。いったん伝播を受けてしまうと自身で生み出すよりはそれを磨き上げる方が手っ取り早いため、文明文化の源流は辿っていくといくつかの起源に行き着くがそれは単一ではない・・・

不思議なことに発祥の地は今の先進国とは異なる。なぜ先発の地は伸び悩み、そうではなかったところが台頭し、現在の文化、文明、経済の不均衡が生まれたのか・・・その解明がこの本の主題なのですが・・・

メソポタミアは自然を食い尽くして途絶えた。中国はあまりにも統一のとれた国家が支配したため進歩の芽を摘んでしまった。
そんな中で東方からの大陸横伝播の終端として遅れて始まったヨーロッパの文明が、その後の改善進化で世界を圧倒する近代文明に到達した背景には地政学的な理由がある。
複雑な地形が原因で小さな国家や民族が統一されないまま残り、強すぎず弱すぎず、中程度の結びつきの世界であるヨーロッパは文明進化の切磋琢磨に必要な多様性があるがゆえに、伝播を受けた文明を磨き上げることには有利だったのだと。

この本は農業や文字が生まれて育っていく一つ一つの話がそれ自体でも面白い。ですが"伝播には「実体の模倣」と「アイデアの模倣」がある"とか、"偉大と言われて名を残している個人や集団の業績をつなぎ合わせるのみで歴史を語ることは困難”といった記載もあり、発祥や発見発明、進化とは何ぞやといったことについても改めて考えさせられる感動的な必見本です。

自然環境に分け入り嗅ぎ分けたものを育てることで自然に農業が芽生えていくといった話はどことなくレヴィ・ストロースの「野生の思考」を思わせたり、E.S.リードの生態心理学に通じる雰囲気もあったりもしますが、なによりもこの本には全世界と一万年を超える人類の歴史をわしづかみにした壮大さがあります。(2011.12.1)
by C_MANN3 | 2012-08-06 00:00 | クオリアとか進化論など | Comments(0)
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