◇問題は英国ではない、EUなのだ

【2016/12読】 この本は英国がEU離脱を決定し、米国ではトランプ旋風が巻き起こる中で出版されたエマニュエル・トッドの新著です。題して「問題は英国ではない、EUなのだ」。エマニュエル・トッド著、文春新書1093、2016年の刊。

EU離脱については既にそれを予見していた著者にとって当然の帰結であり、強引に推し進められるグローバリゼーションに疲弊する世界の中で巻き起こったネイションへの回帰なのだと。
今回の英国のEU離脱、そして米国のトランプ旋風・・・それは世界中をグローバリゼーションの渦に巻きこみ込んだ火元の国でさえもが、人・物・金の見境のない流動による弊害が耐え難い状況に至ったことを示している。
そうしたこともあり今回EU離脱に至った要因については移民の急増や経済格差が言われているが、実はもっと重要な動機は英国議会のEUから主権を回復することにあったことが投票の出口調査からもうかがえ、それは英国が世界に先駆けて"近代”の扉を開いた“名誉革命”へ回帰とでも呼ぶべきものであると・・・

EU離脱を決めた英国はいま戸惑っているようにも見え、次は連合王国の分裂かともいわれているが、そんなことにはならず、時間はかかるかもしれないが広大な英語圏諸国との絆を深める中で英国は再び確固たる地位を再構築するに違いない。

では一方のEUはどうなるか・・・超国家を目指して突き進んできたEUは益々構成国の国家主権の垣根を低くしEUとしての官僚組織を肥大化させる傾向にあるが、そうした中で経済政策、移民政策等で益々理想主義を貫こうとするドイツに対して、今までは仏・英が歯止めの役割を果たす微妙なパワーバランスの上に成り立っていた。
だが今後は英国の援護射撃を失ったフランスがドイツの歯止めとなることは難しく、おそらくは益々ドイツ色の強いものとなる。そこでドイツが理性的にふるまわなければあちらこちらで超保守が台頭し、構成国のネイション回帰が始まり分裂する可能性もある・・・というのがトッドさんのお見立てのようです。

ところで著者のE.トッドさんは歴史人口学者で家族人類学者。この本の後半ではご自身の血筋やキャリアの中で一連の著作を世に問うに至った思索変遷の経緯が回顧され、併せて人口学や家族の形態比較の視点から見た歴史の様相が解説されていきます。

外婚制共同体家族を基盤とする国家とかつての共産圏は分布が重なる。ベトナムは共産主義化したがとなりのタイは母方同居を伴う核家族をベースにした社会だったために共産主義には染まらなかった。その共産圏が崩壊した際も核家族型のポーランドや直径家族型のチェコはスムーズに共産主義を脱したが、中国やロシアは今後も尾を引きずると。また直系家族の社会は国家機能を内包しているがゆえにとりたてて国家を必要としないとか、核家族の社会は個人主義を発達させるが実は個人主義ではみ出したものを補完するためにかえって確固たる国家を必要とする、はたまた内婚制共同体家族のアラブではもともと国家形成が困難なのだ等々・・・

そしてこうした見方の延長線として2030年代の世界を展望する章へと続くのですが、読み進めるうちにこれからもE.トッドさんの予見が現実のものとなる場面は種々出てきそうな気がし始める貴重な一冊でした。
by C_MANN3 | 2015-12-30 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)
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