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'10/12 ▼「ユーロ」、危機の中の統一通貨・・・

[2010.12.23掲載] ギリシャやアイルランドの財政危機が言われる中、一冊の本が出ています。題して「ユーロ」、副題が“危機の中の統一通貨”、田中素香著の岩波新書1282。

国家主権を尊重し、従って性善説にたった最低限度のルールと制度で統一通貨を擁しているEU。
そのため舵取りは難しく、たとえば統一通貨で統一公定歩合の制度下ではデフレ懸念のドイツを気遣い低めの金利を設定すると物価上昇率の高い南欧諸国では実質マイナス金利となってさらにバブルを誘発する。かといって地域間格差是正の政策や緊急危機対応の融資は国家間の調整に手間取り遅れ気味となる・・・

そんな中、リーマンショックの余波がやっと収まりかけたところで出てきた放漫経営国家ギリシャの財政危機でユーロは危機に瀕していて、学者や評論家からは統一国家無き統一通貨の当然の帰結でありユーロを分断し為替調整機能を復活させるしか出口は無いとの意見も出始めている。

だがこの本の著者は言う。ドイツが飛び出せばマルクは急騰し輸出競争力を失い、南欧が分離すれば通貨は下落し国丸ごとが投機資本の餌食になる。それがわかっているメンバー国は一国として分離を考えている国など無い。

EUはそんな柔な連合体ではない。この数十年間、危機があるたびに結束を強め制度を見直し今に至っている。今回の危機をきっかけにさらに新たな国家財政危機への対応や地域間格差解消の仕組みを身につけるならEUは更に確固たるEUになっていく(そういえば先日、EU版IMFの設立が合意)・・・
そしてロシアや中国が台頭し益々利害の対立があらわになる中ではEUのまとまりは益々重要なのだとも。

ユーロの仕組みや金融危機解説の章は難解ですが、無理やり読み進めるうちに著者の熱気が伝わってくるEU賛歌の本でした。(2010.12.23)
by C_MANN3 | 2024-08-10 12:23 | Comments(0)
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