◇中東から世界が崩れる・・・

◆中東から世界が崩れる H29/1読

高橋和夫著、NHK出版新書490、2016年の刊。物騒な題名ですが、「イスラム国の野望」に続く高橋教授の近著。この本では今まさに混迷のさなかにある中東の全容が解りやすく解説されています。

国によって宗派も民族も政治体制も異なる中東ですが、まずは序章でその歴史を紐解きつつ、宗派の区分やアラブ人とペルシャ人の違いが解説される中で、イスラムは本来は異教徒に寛容なはずであり、紛争の本質は宗派対立ではなく、利権争いなのだと。
続いて各国の話に入ると、なんとまともな国民国家の体をなしているのは千年を超える歴史を持つイラン、トルコそしてエジプトのみであり、この三つの国は強い民族意識と自負心を持っている。だがそれ以外の国々はサイクス・ピコ協定に端を発して勝手な線引きをされた結果として生まれた国であり、無秩序に詰め込まれた民族や宗派を独裁強権で抑えこむか、ばらまき行政で形を取り繕うしかない“国家もどき”なのだと。

石油資源による潤沢な経済力とメッカを抱えている地の利で、周りからは一目置かれているかに見えるサウジアラビアでさえ、石油価格の低迷でばらまき行政が成り立たなくなると国民との暗黙の契約は維持できなくなる。その上にイランの影におびえて金のかかる武力にでも訴えるようなことがあれば疑似国家サウジは一挙に崩壊しかねない。

中東は新たな列強の時代に入っている。域内の勢力としては対外的な動き強めつつあるイラン、トルコ、それに今は鳴りを潜めているがエジプト、そして特殊な位置にいるクルドとイスラエル。他方それを取り囲む域外勢力としてはやる気を失ったアメリカ、距離を置くヨーロッパ、それに入れ替わってに勢力を伸ばすロシア、中国。
そうした列強のはざまでアフガニスタン、イラク、シリア、イエメンといった“もどき国家”では内包する宗派・民族間の内紛に乗じて息を吹き返すターリバンや台頭するISに踏み荒され、正に国境線が溶け始めている。
固まってくるものと溶けていくもの・・・もしかしたら中東のいくつかの国は崩壊と再編の末、植民地支配以前の時代に戻り混沌とした諸部族の時代に帰るかもしれない。となるとそうした国では伝統社会の在り方を良しとするのも一法かもしれないとも。

この本ではそうした中東の揺れ動く現況と未来への予感を、各国の国民や民族、宗派の感情の機微にも触れながら解説してくれている有難い一冊です。ところでそんな中で日本は善意の基盤を守り抜く事が肝要だと著者は仰っているのですが・・・
by C_MANN3 | 2016-02-24 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)
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