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◆組織と情報:暗黙知に火をつける

【2005.10.30記】 情報システムの役割は形式知をリアルタイムに共有し、蓄積し、いつでも効率的に活用できること・・・ですが、更なる役割はそれをベースにして暗黙知が誘発されること。

こんな思いを募らせていたのですが、富士通がメインフレームの時代から25年にわたってはぐくみ進化させてきたナレッジマネジメントの本が出ました。
題して“富士通の知的「現場」改革”。野中郁次郎監修、黒瀬邦夫著、ダイヤモンド社から10/14発行されたばかりのものです。

一橋大学の野中郁次郎さんが提唱するSECI理論をベースに試行錯誤を重ねた体系とのことで、主観や暗黙知をくみ上げて実成果につなげることに真正面から取り組んでいます。

SECI理論とは・・・
知識には暗黙知と形式知があるが破壊的想像につながるのは暗黙知から出発したもの・・・この暗黙知をメンバー間で共感し(S)、概念化し(E)、結合し(C)、具現化(I)する。このプロセスからメンバーの主観領域にさらに新しい暗黙知が生まれ・・・これが循環することで革新的な知識が創造されていくというもの。

このプロセスを理解し推進するのが真のナレッジマネジメントであり、形式知のみに注目したIT化では多少便利にはなってもそこから創造的知識が生まれるまでには到らない。

富士通でも最初はITを駆使しネットワーク上で情報共有さえすれば何とかなると思って始めたが、便利にはなってもそこから「智慧」は生まれなかったとのこと。そこに思い入れのある人が絡み、フェース ツー フェースの場があって、さらにある程度の強制力とトリガーが働くことが必要といったことが少しずつ判明。

結局暗黙知を重視するナレッジマネジメントシステムは、ITベースのシステムに、思い入れのある運営のマネジメントがプラスされて始めて成り立つということのようです。

本書の構成ですが・・・
第一章が野中さんと富士通社長の対談コーナーで、味わい深い話が満載です。

第二章以下では、富士通の4000人のSEが集結した「富士通ソリューションスクエア」での運用状況、このシステムを導入したユーザー企業の事例と続きますが・・・
このソリューションスクエアにおける、あるSEの一週間の日記風の実況中継がおもしろい。最先端のネットワーク技術やOA環境が駆使された職場環境なのですが、その一つ一つのエレメントはあちらこちらの企業でも導入されていそうなシステムやソフト。

ですが、それが全て統合されて一連のナレッジマネージメントフローとして展開される姿はもうSFの世界。あまりにもできすぎていて富士通がソリューションPRとして描くバーチャルな夢の世界と思えなくもないですが・・・高価なシステムを導入するしないにかかわらず、その心、運用ノウハウはぜひとも吸収し展開に着手すべきもの・・・まさに本書の副題に示された“事例に見るワークスタイル変革の実践”そのものといった注目に値する一冊でした。

ただ多少、気になることも・・・ここまでスムーズに形式知が組織的に集結され、編集されてしまうと、とりあえずのところはそれで良しとなってしまい、暗黙知が埋もれてしまうのではないか。もう少し渋滞、停滞が発生し、行き詰まり、コンフリクトが発生する状況がないと暗黙知をリクエストするトリガーが働かないのではないか・・・などと思ったりもします。

SECI理論、暗黙知については“組織と創造性”のコーナーでも▼別掲記事があります。(2005.10.30)
by c_mann3 | 2008-12-12 00:00 | Comments(0)
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