◆立花隆さんの「脳科学」シリーズ

NHKで立花隆さんの「脳科学」をテーマにしたドキュメンタリー番組が続いています。感動的な番組ですが、なんとこれに立花さんの研究室のホームページが連動していて、あわせてみて行くと・・・今、脳科学が本当にとんでもないところまで来てしまっていることを実感させられます。

◆脳深部刺激療法(DBS)

昨年、脳深部刺激療法(DBS)とかいって脳の特定部位に電極を差し入れて刺激レベルを直接操作する手術が紹介されていました。番組の中では局部麻酔で患者さんと話ができる状態で電気刺激を調整し痙攣を止めるシーンがありましたが・・・他にも色んなスポットが発見されつつあって悲しみのような感情を調整する場所も特定できたとか。

こんなシーンを目の当たりにすると心脳問題は、いよいよ脳サイドに軍配が上がるのかと思いきや、手術をされていた先生が、「いろんなスポットが特定され、まるで心が操作できるような印象を与えていることは遺憾。こころはこうした刺激調整で操作できる脳と外界との関係性の中に存在するもの・・・この技術を進めて行っても心が操作できるわけではない」といった意味のことをおっしゃっていたのが印象的でした。

◆サイボーグ

先月も“サイボーグ”と題した続編が放送されていました。
両手を失った人に義手をつけ、それをご自身の脳から発信される神経信号を電気信号に変換したもので動かすことで、ほとんど意図どおりに指やひじを動かすことができるとか・・・そうかと思うと目を失った人がCCDの信号を脳に直接伝えることで目の前の風景が見えている感覚がよみがえるとか・・・

脳や筋肉の神経の信号をコンピュータで解釈しそれで外界の人工的なもを操作することが実際に行われ始めている話は衝撃的ですよね。
サイボーグは脳自体は生身の人間のものを使う。脳そのものをコンピュータで代用しようとするソニーやホンダのロボットとはまったく異質の世界ですが・・・脳をコンピュータで再現することの困難さを思うと、ロボット以上に遠いSFの世界と思っていたサイボーグが一挙に近未来に迫ってきている感じがします。

ただ、従来の脳神経が直接使われているわけではなさそう・・・義手にしてもよく見ていると、今まで表情豊かに指先を動かしていた神経信号が、そのまま新たな義手に流れ込んでいるというわけではなく・・・大味な神経網を一旦胸の筋肉に導入し、筋肉の動きを電気信号として義手に導入。そのからくりを前提に新たに訓練して手や指を動かしているようで、従来からの脳のメッセージというよりは義手を前提に新たに獲得された別の神経網で動いている感じです。

でもこんなことを積み重ねていって少しずつ精緻化していく可能性は十分秘めていますよね。


◆実はこの番組、ほかにも気になることが・・・

立花さんのこの回のドキュメンタリーではサイボーグSFの映画監督押井守さん、脳科学者の川人光男さん、ユング心理学者の河合隼雄さんへのインタビューが挿入されていて・・・
立花さんの「こんなことを進めていくと人間の本質が変わってしまうとか、脳が異質なものに変化していくってことはありませんか」との質問に対する反応がそれぞれで印象的でした。

脳科学者の川人さんは何と20万年前に人類が言語を獲得した時点を引き合いにだし、そのとき人類の脳はとんでもない神経網の再編を余儀なくされたことと引き換えに新たな時代を手に入れた・・・今回のサイボーグ化で再び脳の再編があったとしてもそれは人類が何回となく繰り返してきたことなのだと・・・

SF映画の監督はさらにあっさりと・・・サイボーグ化はすでに進行している。現代の都市機能はすでに巨大な義体。人々はこの義体を前提に脳を再チューニングして生きていくサイボーグ化の時代に入ってしまっているのだと・・・

意表をつく二人のコメントに比べると、ユング派の重鎮のコメントは「主観は脳科学では扱えない」とか「人格の統合が確保されるか」などとやや歯切れが悪い・・・

たしかにサイボーグや脳科学の話はいまのところ自己や自我と言った心の領域には遠く、意識のうちでも身体機能や感覚入力といった領域に限られて入るようですが・・・
三者のコメントを比較していると心のプラットホームとしての意識の外延がこれほど変化を見せ始めている今・・・深層心理の話だけでは心の行く末についての説明力、展望力に欠けるのではないか?などと思ったり、おもしろくはあるがなんとなく跡付け理論といった感じがしていた「進化心理学」って言葉が急に気になり始めたりもした次第です。(2006.5.30)


なお、立花さんの番組連動ホームページはWebサイト“SCI(サイ)”の中で「NHKスペシャル補遺」http://sci.gr.jp/project/nhksp/としてまとめられています。
by c_mann3 | 2012-04-16 00:00 | クオリアとか進化論など | Comments(0)
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