組織と創造性:ものづくり経営学・・・

前掲(ひとつ上にスクロール)の記事“知識創造と知識調達”もそうですが、“うまく抽出された対概念”は企業組織が持つ特質をくっきりと浮かびあがらせ、風景を見る視座を一変させてくれる感じがします。

同じようにたった一つの対概念、“「すりあわせ」と「組み合わせ」”をペースに広範囲な“ものつくりの世界”を描きつくした面白い本が出ました。
題して「ものづくり経営学」、東京大学ものづくり経営研究センター編。光文社新書で先月(2007年4月)発行の本です。

◆すりあわせ、組み合わせとは・・・

ものづくりのプロセスは「すりあわせ(インテグラル)型」と「組み合わせ(モジュラー)型」に区分される・・・
ある製造現場で取り扱う部品の外的取り合い(インターフェース)が標準化されていて、それを組み立てる際も取り立ててノウハウ的な配慮が要らないものがモジュラー型、対して個々の部品が専用設計されていて、組み立て時もなんだかんだと調整やノウハウが必要なものがインテグラル型ということのようです。

しかもこの区分は川上の部品メーカーレベルと川下のアセンブリーメーカーレベルで個別に見ることも可能であり、たとえば自動車は部品も組み立てもインテグラル型の業種ですが、自転車業界ではインテグラル型で作られたシマノの自転車ギアコンポーネントをモジュラー型のアセンブリーメーカが仕上げているといった感じで扱われています。

◆この切り口から見えてくる風景は・・・

川上と川下の組み合わせで変わる製品アーキテクチャと、それを取り扱う組織能力のマッチングでその業界の競争力や生産性が異なるということなのですが、
これを元に分析すると日本の製造業は「すりあわせ(インテグラル)型」に強く、組織能力もこれにマッチするよう形づくられている・・・

インテグラル型の工程や企業はノウハウ的な技術密度が高く他社や他国の新規参入を受けにくいが、モジュラー型の企業や工程は量産規模拡大による低価格競争に陥りやすい・・・

面白いのはアメリカや中国といった各国の競争力の源泉がこの理論で見えてくること。
なんと、アメリカと中国は「組み合わせ(モジュラー)型」。ただしアメリカは構想力に強い知識集約型のモジュラー型、対して中国は動員力が強味の労働集約的なモジュラー型。インテグラル型の日本にとって、うまくすみ分ければ中国は日本の脅威にはならない・・・

また日本がインテグラル型で高技術密度の高機能商品として作っていたものが中国の手に渡ると・・・バイクや携帯電話に見られるように、機能の簡略化と標準化がなされて低賃金の単能工でも取り扱えるモジュラー型ビジネスに変身し、市場を一挙にそこそこの品質の低価格商品が席巻するものに変えてしまう・・・

さらに、組織能力はベースとする製品アーキテクチャにジャストフィットする形で進化しているため・・・「すりあわせ型」の会社に「組み合わせ型」の企業風土で発達した外来の経営制度をむやみに導入すると混乱を招くとか、「組み合わせ型」をベースに開発された欧米のCADシステムは日本の「すりあわせ型」企業ではしっくりこないといった話も。

この製品アーキテクチャと組織能力といった分析法は単に製造業だけでなく、流通業、金融業にいたるまで適用可能ということで分析した事例は広範囲に及びます。
あれやこれやでものづくりや産業の形態を考える際には使って役に立つ面白い視点、・・・新書版とはいっても通常の倍ほどの分厚さがありかなり濃厚ですが、とにかくお勧めの一冊です。(2007.5.6)
by c_mann3 | 2009-08-14 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)
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