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組織と創造性:ものづくり経営学・・・《続》

ものづくりにおける「組み合わせ(モジュラー)型/すり合わせ(インテグラル)型」・・・この対はいろんな思索を整理するには意外に使い勝手のよい概念対なのかもしれませんね。

考えてみるとヨーロッパのマイスターに代表されるような熟練技術者を前提にした工芸的工業(すり合わせ)の時代から、アメリカ大陸で始まったベルトコンベアーと素人単能工による大量生産(組み合わせ)の世界へと時代は大きく変わりましたが・・・それでマイスター的な産業が消滅したわけでなく、いろんな国のいろんな産業で両者は濃淡を入れ替えたり重ねたりしながら今の産業を形作っている。

マイスターや日本の匠の世界には何百年といった伝統が背景にある。特徴としては長期修業と非分業。師匠と弟子の関係は一生続き、一人前になるには数十年を要する。今で言うなら終身雇用を前提に積み上げていく多能工的な世界。付加価値のほとんどが現場の匠の指先と五感から発生する。設計と製造も分離していない。暗黙知と形式知でいえば暗黙知が主力。

そうした伝統的な産業構造の対極にある戦略は、設計と製造の分離。短期就労の非熟練単能工でも成り立つように製品のアーキテクチャーを徹底的にプレデザインする。付加価値は事業化の算段を含めた企画、設計段階でほとんどを確保。後は資本力と人海戦術で一気に打って出る。こうして近代的な「組み合わせ産業」の時代が出現したといえなくもない。

もちろん「組み合わせ VS すり合わせ」というのは概念上の仮想的な両極。いったん両極の風景が固まれば、その組み合わせ、強弱は無限。社会的な背景を含めた状況や目的に応じて最適なポジションに到達したものが競争優位に・・・といったことなんでしょうか。

逆に言うと最適なポジションというのは絶妙なバランスの上に立っている。そしてしばしば自覚すらしていない状況にさえもジャストフィトして競争優位を保っている・・・良かれと思って年功序列を崩すと、良かれと思って技術革新をすると、万能と思って新しい世界に進出すると・・・再びバランスの崩れた世界に迷い込む可能性は無くもない・・・

さらに「組み合わせ」と「すり合わせ」はしばしば同じ市場で主従が替わる。電子機器の世界でアナログが一挙にディジタルに入れ替わるように「すり合わせ」はある日突然「組み合わせ」に市場を奪われる。あるいは「組み合わせ」の中の要素の中に封印されて隠れ「すり合わせ」技術となることもある。だが、「すり合わせ」が高度な付加価値を含むことには変わりなく、今日もどこかで新たな「すり合わせ」の世界が生まれいいる・・・

などと・・・「組み合わせ VS すり合わせ」の対概念は、これからもいろんなことを考えさせてくれそうです。(2007.5.18)
by c_mann3 | 2009-08-12 00:00 | Comments(0)
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