◆13年前の「マルチメディア」・・・

会社の図書室の片隅で眠っていた古い本を読んでいます。

西垣通著「マルチメディア」、岩波新書339、1994年刊。西垣さんといえばこのブログでもいくつかの記事で話題にさせていただいているのですが、軽妙なタッチの文章で独自の情報論を展開されていて、私などは大のファン。

実際に読み始めてみると、マルチメディアのITテクノロジーとしての側面よりも、人とメディアの関わりを主題にしたもの。グーテンベルクの印刷技術にも匹敵する情報技術の変革であるマルチメディアが社会や“種としてのヒト”にどう作用していくかに力点をおいた著作のため、古くなった本といった感じは微塵もない。

この本によると・・・人は本来、五感を総動員した感覚的な世界からロゴスを生み出していくことに長けていたはずなのだが、活字メディアの時代になって、活字で表現されたロゴスを起点にさらにロゴスを再創出するといったことが多くなり、その分、感覚的な世界が後退してしまった。
そこに現れたマルチメディアの時代では、テキスト以外にも映像や音を一緒にハンドリングできるため、本来は再び感覚的な世界が復権しうる可能性を秘めたもの。

だが音や映像といった感覚的なものも単にそれに浮かれていると、人は効率的に商業生産された感覚的なものをただ消費するだけの存在となり、ロゴスも感性力もが弱体化してしまう・・・
マルチメディアは人が再び感覚的な世界とロゴス的な世界を縦横に行きかうことができるようになるプラットホームとなってこそ意義のあるものなのだということのようです。

13年たった今、ヒトや社会がITやマルチメディアを手に入れることで利便性や娯楽性が格段に進化したことは確かですが、より感性レベルでの情報処理ができ、コラボレーションで知の創造を加速できるはずといった夢は今もなお霧の中なのかもしれません。(2007.10.12)
by c_mann3 | 2008-10-10 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)
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