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◆豊洲市場・・・欲しいもう一つの議論

【2016.10.12記】 新たに就任した小池知事が「いったん立ち止まって見直す」と宣言すると同時に露わになった、豊洲市場の水浸しの地下空間の写真。あまりにも奇妙で不気味な風景に以降、テレビではニュースも昼のワイドショーもこれ一色に染まってしまいました。

後は雪崩を打つようにあるはずの盛り土が無い、専門家会議や技術会議の勧告とは異なる、これで市場としての食品の安全性は保たれるのか、そしてこの地下空間は一体何なのかと・・・話は一挙にいつだれが専門家会議の勧告を捻じ曲げたのか、その際の報告はあったのか、あったとすれば承認したのは誰だと話は進み、こうした話が持ち上がった際にはお決まりの、ケシカラニズムに基づく犯人探しと責任追及の世界に突入してしまいました。

もちろん安全性に疑念が出た以上、専門家会議の勧告を受けて展開されたはずの推進の各段階で不適切な発注や指示、計画変更の協議や承認がなかったかとの経緯の究明は大事です。ですが責任の追及一色に染まってしまった都議会やマスコミの動きを見ていると・・・何かもう一つの大事な事柄がかき消されてしまっている。

それはこの一連の犯人探しが終わり、戦いすんで日が暮れて、夜が明けた後・・・経緯はともかく今目の前に横たわっている土壌、地盤、そして建造物は・・・使えるものなのか、何がしかの改造が必要なのか、はたまた市場としての利用は放棄すべきものなのかといった話に立ち戻る。そして何よりもこれが大事のはず。

つまり手続きの適合性とは別の次元の話としての、今目の前に横たわっている“物”の妥当性の吟味ということなのですが・・・そのためには各プロセスに関わった人の設計意図、専門家会議の勧告とは異なるが、あえて実施設計の段階で変えていった理由と、それが将来の市場の安全な運営にとって可なのか否なのかを再検証することが必要、そしてそのためにはそれに直接かかわった人たちからの意図の表明が必要なはずなのにそうしたことはほとんど話題になってこない。

例えば建造物の下に盛り土が無いことがケシカランということになっていますが、盛り土を完全に残すことが金科玉条なら建物は高床式にでもすべきだったということなのでしょうか。建物の下には基礎があり、何がしかの設備空間が必要な事は当たり前のことなので改めて会議体に(承認願いといった)手続きが必要な事項とは思っていなかったといった話も出ています。

公開されている専門家会議の報告概要を見てもそこには、土壌や地下水の事前除染、そのための仕上げとしての盛り土、そして運用開始後も汚染状況をモニタリングできる設備を有すること、地震の際の液状化防止として地盤の改良と地下水位を一定に制御するための揚水設備を有すること、といったことは規定されていますが、そこに建物を造る際の基礎や構造についての言及があるわけではない。
よって関係者はその技術的見識と、それを担う組織のブライトにかけても一歩前に出て、今作られているものがなぜこうした形になっているのかを説明すべきです。

例えば建築物の下の盛り土についてはプロポーザルの技術提案をした日建設計からの見解書が出ていますが、一旦こうした疑念を持たれてしまった以上、各部署がこうした見解を市民に分かる形で表明し、都はそれを束ねて世間に問うことが必要であり、それを責任究明とは別に、並行して早急に行うべきです。

実はこの地下空間はまだ未完成で、雨水等の排水処理システム、地下水位を制御する揚水システム等が稼働し始めれば地下空間にたまった水は消えてなくなるという話もあり・・・もしそうならば今回の騒ぎはその大半が、未完成な建造物の地下に土足で踏み込んで引っ掻き回し、本当に確かめるべき関係者からの意見聴取もせずに巻き起こしたカラ騒ぎということになるのですから・・・

▼2016.10.20追記
地下水制御システムが稼働し始めれば・・・などと書いていたのですが、10/14地下水制御システムが本格稼働を開始し、地下水位観測値の推移がホームページで公開され始めました。

で、早速その値をよく見てみると多少下がりかかってはいるようなのですが、数値だけが公開されても理解は難しいですよね。21か所の観測点で地下水位が2.5mから4.5mと大きくばらついている・・・どうやら野原のため池の水位を測って高ければ排水ポンプで一挙に排出するといったイメージとは様子が異なる。

そもそも地下水位とは何を表しているのか、地下水を排出するとはどういうことなのか(もしかして排出井戸に少しずつにじみ出てきたものを排出しているだけなのだとか・・・)、そしてその下がり具合は設計で想定していたものと比べてどうなのかといったことを解説付きで公開して頂かないと、またしても的外れなコメントが流布しかねない。

せっかくの情報公開ですからこうした技術的に込み入ったものについては(池上先生並みの分かり易さとまではいかなくても)それなりの解説を添えて公開して頂くのが“市民との情報共有”のあるべき姿ではないかと・・・ともあれ本件はもうしばらく要経過観察ということのようです。

▼2016.10.31追記
地下水管理システムが本格稼働し始めて半月が経過しました。公開されている21ヶ所の地下水水位の記録をグラフ化しながら様子を見ているのですが・・・+1.8~2mの管理目標にスムーズに接近しているとは言い難い状況が続いています。
b0050634_23141784.jpg地下水管理の制御目標ラインの近辺に敷設されている砕石層が通路となって、その下から湧き上がってくる地下水や、上から滲み落ちてくる地下水を集めて排水井戸に導くはずなのでしょうが、それがうまく機能していない感じがします。

そもそもこの砕石層は、建物の地下空間の内外とつながっているのでしょうか。外部とつながっているのならこれを通路として外部の地下水が地下空間に流れ込んでくるでしょうし、つながっていないのなら地下空間に一旦たまった水を排水井戸に導く事はできない・・・なぜ地下空間があるのかだけでなく、地下水管理システムの設計意図についても当事者の説明が欲しい所です。

▼2016.11.16追記
地下水管理システムが本格稼働し始めて一ヶ月が経過しても管理水準の1.8mには届きそうにない中、気長に発表される数値をグラフに足しこんできたのですが、ここにきてとんでもないことに・・・
グラフ中の赤◆印は日量10mmを超える雨量があった日を示しているのですが、先週末の11/11、日量40mmを超える雨が降った際に地下水位は一挙にリバウンドしてしまいました。これではいつまでたっても管理水準には到達しないのではないか・・・やはり地下水管理システムについても設計者がどういう目論見で設計施工したものなのか、説明して頂くことか必要のようです。(もうしばらくはグラフを更新しながら様子を見ることにはしますが・・・)


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by C_MANN3 | 2016-06-24 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆ローマ街道をも思わせる、日本の古代の道

【2016.8.28記】 飛鳥時代の昔、奈良盆地の中を三本のとんでもない幅の官道が、並行して一直線に縦貫していたとの話に接して仰天。それ以来古代の道路の本を漁るようになった中で出会った幾つかを以下に・・・

◆道が語る日本古代史/◆古代道路の謎 H28/8読

まずは「道が語る日本古代史」朝日新聞出版2012年刊の「道が語る日本古代史」と、「古代道路の謎」祥伝社新書2013年刊の「古代道路の謎-奈良時代の巨大国家プロジェクト-」。
いずれも近江俊秀さんの著作なのですが、この本では古墳時代から始まり10世紀後半までの古代官道の変遷が、官道にまつわる時代背景と共に生き生きと描かれています。

まず話を聞いて仰天していた奈良盆地の三本の直線官道は奈良だけではなかった。推古天皇の時代には、大和だけではなく河内平野にも縦横に何本もの直線官道が走り、難波や住吉の港と飛鳥の宮を繋いで威容を誇り、その道は隋からの使者を迎えても恥じることのない(ことを目指した)道でもあったとのこと。
しかしこの官道は日本の官道の序章に過ぎず、国中に律令制度が浸透する天武天皇の時代にはその官道が国中に張り巡らされることに。律令国家体制では列島を五畿七道と称して都のある畿内を除く列島を七つの道と称する行政区画に分け、都を起点に各道に至る官道を総延長6千kmに渡って張り巡らせたとのこと。しかもその道は格の高い所では幅12m、ひたすら直線であることを旨として張り巡らされ16kmごとに駅舎を設けた壮大なもの。

ところがこの官道はやがて中央集権貫徹の時代から少しずつ地方へと権力が分散していく時代の変遷に呼応するかのように、まずは8世紀の後半に道幅が縮小されて整備がしやすく使い勝手の良いルートへと変更され、10世紀後半には更に幅の縮小されて直線性も失われいわゆる生活道路へと埋没していくことに・・・
そうして埋もれ文献の中に痕跡を残すのみとなっていたこれらの古代官道が現代の1960年頃になってあちらこちらからで遺構として発見されはじめたことをきっかけに、発掘と歴史地理学的な研究が両輪となって今その全容が浮かび上がってきたのだと・・・読み進めるうちに、従来の古代史とはまた趣の異なる切り口で古代日本の心意気が浮かび上がってくる感動的な著作です。

◆道路の日本史/◆完全踏査古代の道 H28/8読

続いて「道路の日本史-古代道路から高速道路へ-」武部健一著、2015年刊の中公新書2321。この本も日本の古代官道に関する話なのですが、著者が日本道路公団で高速道路の計画・建設に心血を注いでこられた方で、前掲の近江さんの本とはまた違った切り口となっています。

五畿七道の全国に張り巡らされた日本の古代官道をローマ街道や中国の古代の官道と並べて位置づけるところから話は始まり、五畿七道の時代から、江戸期の道、鉄道に追いやられた明治期の道、そして列島改造論で始まった現代の全国の高速道路網に至る日本の道の国策、設計思想、使用技術の変遷が展望されていて壮大な構成の本となっています。
著者は全国の五畿七道時代の駅路の痕跡をくまなく踏査されているのですが、調べれば調べる程、このひたすら直線を旨として全国を繋いでいった古代の官道が、現代の高速道路網のルートと重なり、駅舎の位置も現代のインターチェンジの位置に酷似していて、しかもその総延長までが(北海道を除くと)6千kmと酷似しているとのこと。

古代の官道は紆余曲折を経て10世紀の末頃には一旦やせ細り曲がりくねって埋没の憂き目にあっていたのですが、期せずして現代の列島高速道路網として甦ってきたということなのでしょうか。
なお著者が全国の五畿七道の駅路を踏査した記録は別途、武部健一著「完全踏査古代の道」、2004年吉川弘文館刊の上下2冊として出版されており、これも読みごたえのある重厚な本となっています。

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by C_MANN3 | 2016-06-22 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆「日本企業にいま大切なこと」・・・

[2011.9.20掲載] 野中郁次郎さんと遠藤功さんの共著「日本企業にいま大切なこと」、PHP新書752。この本は「見える化」の著者遠藤さんと「暗黙知やSECI理論」を提唱する野中さんの対談をベースにしたリレーエッセイ集です。

失われた20年、その間であたかもそのその原因のようにいわれて否定されていった日本的なもの。そしてそれに変わる脱出策として急激に導入が始まったアメリカ的なグローバルスタンダード。
利益重視、成果主義、コンプライアンスや統制の重視。だがこうしたグローバルスタンダードによる国際化は失われた20年への処方箋にはならず、かえって職場の関係性を破壊し暗黙知を育む温床を傷つけてしまった。

何かが壊れてしまったかにみえた日本。だが今回の震災、原発事故への対応過程でいろんなことが浮かび上がってきた。
極論に走りリアリズムも哲学もないままに思いつきの施策を繰り出す中央の政官。対してかつてのDNAがうごめき始めたかのように状況に立ち向かう地域や市民。そして企業にも利益よりもコモングッドを優先する企業が続出している。どうやら少なくとも地域や民、そして心ある企業の現場は壊れつくしてはいない。

企業の経営はサイエンスではない。過去のデータを分析しても未来は見えない。利益優先よりはコモングッドの追求、成長よりは持続。そうした中でこそ現場には結束力や暗黙知が生まれる。超短期の課題は暗黙知による現場力で、そしてそれを長期のビジョンで方向付ける。
失われた20年から脱却するためには地域や市民、そして企業の日本的なものへの回帰再生が鍵となりそうだが、その可能性が今回の危機をきっかけに見え始めていると・・・

読み進めるうちに今回の危機対応の機運をうまく育てて日本的なものへの回帰を果たすなら未来はあるのかもしれない・・・そんな気がし始める感動の一冊でした。(2011.9.20)
by C_MANN3 | 2016-06-20 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆「TPP亡国論」・・・もうひとつの思考停止

一冊の新書が出ています。題して「TPP亡国論」、中野剛志著、集英社新書0584。

2010年11月のAPEC横浜首脳会議の直前に突然出てきたTPP(環太平洋経済連携協定)加入論。一部の農政関係者の強烈な反発で首脳会議での参加宣言には至りませんでしたが、この本はそのTPPが如何に日本にとって百害あって一利のないものかを語ったもの。

韓国が米国とのFPTを締結したこともありこれを持ち出した政府の意図は、加入しなければ国際競争力を失い貿易立国日本の将来はなくなる、アジアの活力を取り込み経済の活性化を行う、GDP比1.5%の農業にこだわっていては日本の未来はない、かつて鎖国を解いた横浜の地で開催される横浜会議でTPP参加表明ができるならそれは歴史的意義のある第三の開国なのだと・・・

しかしTPPは米国が仕掛けたワナ。米国を含めて一次産品の輸出国ばかりが集まったTPPに参加しても日本に有利な条件とはならず、米国の農産物を押し付けら、更にデフレを加速して終わる、それはまさに亡国の施策。


ですがこの本で著者がTPP以上に問題視しているのが、その議論の過程で農業関係者以外の全ての政、財、有識者、マスメディアがそろって賛成し異様な雰囲気に包まれていたこと。

この話にかかわらず政治や経済の重要な政策論議の中でいくつかのキーワードが出ると、日本中がまるで思考回路のブレーカーが落ちてしまったように思考停止に陥ちいり、一挙に極論に偏ってしまうこと。

そのキーワードは・・・日本は自由貿易で輸出をしないと成長しない、開国か鎖国か、乗り遅れるな、成長の拠点はアジア・・・だが実はとれもがグローバル化された世界の政治経済動向に照らすと実態にそぐわず根拠も薄弱な論拠なのだと。

思考停止の癖を排し、グローバル化した世界の中での戦略的な思考ができないと日本を滅ぼしてしまう、開国すべきは関税ではなく世界を見る目なのだとのことですが、説得力のある読みやすい一冊でした。

ところでこの本、読んでいて郷原信郎さんの「思考停止社会」を思い出してしまいました。こちらの本では“けしからん”、“倫理”、そして“コンプライアンス”といったキーワードが思考停止のトリガーに・・・(2011.4.18)
by c_mann3 | 2016-06-18 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

   ・・・“風にまかせて”はさらに続きます・・・

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風にまかせてのコーナーはさらに続きます。

次も“日本の今昔あれこれ”の話の続きです⇒⇒

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by C_MANN3 | 2016-06-01 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆変わる世界、立ち遅れる日本 ・・・

[2010.10.27掲載] 英国の「エコノミスト」元編集長がリーマンショック以降の三年間の世界経済を展望した本が出ています。題して「変わる世界、立ち遅れる日本」、ビル・エモット著、 PHP新書655。

日本の読者向けに書き下ろされたもののようで、小泉政権から現在の民主党政権に至る日本の経済政策についてもいろいろと言及してくれています。

著者は目の前の激変を数十年単位の歴史的なうねりの表れとして捉えていて、そうした視点で見ると・・・

リーマンショックで世界が変わったというが結局何も変わってはいない。ショックが急激で大きかったため各国の政府は巨大な資金を投じて一時凌ぎの施策を連発したが、ほとぼりが冷めるともとの木阿弥の世界に戻りつつあり、たとえば米国では政府資金でまんまとリセットを果たしたメガバンクでも再び役員が巨額の報酬を手にしはじめている。結局体質は変わらず、歴史的なうねりとしての変化への対応は今だ取り残されたままの状態が続いている。

では歴史的な変化に対しての調整はいつ始まるのか・・・

著者は、ひとつには遅かれ早かれそうなる中国元の変動相場制移行で中国の体質が変化し世界経済のバランスが再調整される。また重油価格の高騰による新たな技術創造が進行し、場合によっては産油国の経済優位が新たな国に移るといったことも起こりえる・・・そうしたことを積み重ねながら国家や経済ブロック間のバランスが変化することで歴史はゆっくり、しかし確実に動いていくものなのだと。

そんな中で日本の行く末は・・・

持続的な経済発展には市場原理が働く中での不断のイノベーションと生産性の向上が必須だが、60~80年代の日本の急成長は製造業の生産性向上によるものだった。その後の失われた二十年についてはいろんな原因が言われるが・・・最大の要因はその後、続いて行なわれるべきだったサービス業の生産性向上が全く手付かずのまま今に至っていること。
これに対して構造改革を叫んだはずの小泉政権でも実は手がうてていないし、続いて出現した民主党政権は過度な市場原理や規制緩和を批判するが市場原理自体が悪かったわけではない。

この閉塞感を打破し、さらに生産性を向上させるためには日本は従来の製造立国神話からの脱却が必要。インフラや行政を含めたサービス部門はすでにGDPの70%を占めておりこの分野での生産性向上がなければ再度の成長はなく、そのためには真の知識経済社会を目指すべきなのだと。

どうやら著者はパックスブリタニカがパックスアメリカーナに移行していったような歴史的な時間尺度で経済を見ておられるようで、そう思って改めてこの本のタイトルを眺めると・・・何とも味わい深く示唆的な感じのする本なんですよね。(2010.10.27)
by c_mann3 | 2016-05-14 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆増税による経済の活性化・・・?

[2010.6.30掲載] いよいよ参議院選挙に突入ですね。

役者が交代し支持率が復活した民主党はコンクリートから人へのマニュフェストをトーンダウンさせ、財政破綻を避ける方向に舵を切ったのか突如浮上した今回の争点が消費税の導入。しかもキャッチフレーズが「増税による経済の活性化」・・・??

そんな中で一冊の本が出ています。辛坊治郎、正記さん兄弟の著、題して「日本経済の真実」。

メディアや評論家の暴論に騙されないための日本経済入門とのことですが・・・読み進めるうちにこの本のサブタイトルにある“ある日、この国は破綻します”が信憑性を持って迫ってくる感じです。

GDPが増えない限り経済は豊かにはならないし福祉も続かない。そのためには国内で付加価値を生む以外に方法は無いが、そのためには消費が低迷している中で積もりに積もった貯金や一方的に取られる税金を生きる方向で使うことが必須。

なのに最大の貯蓄先である郵貯銀行の資金の8割は国債の購入に回り、その国債は生かされないコンクリート代や借金の穴埋めに回ってしまう。そこにクサビを打つための郵政民営化だったはずなのに山間部でのサービスの低下といった話に摩り替わりゆり戻しが・・・

この本によると小泉・竹中路線が日本を格差社会にしたというのはウソ。技術の進化とグローバル化が停滞と格差の原因。規制を撤廃し官から民へを断行することで彼らはむしろ一時ではあったが日本の崩壊を食い止めたのだと。確かに色んなグラフは長期低迷の中で在任期間中、株価は上昇し、失業率は下がり、ジニ係数は伸びが鈍化していることを示しています。そしてその後再び怪しくなっていることも。

それにしても増税による経済の活性化とは??・・・それが本当に成り立つのでしょうか。官が税金を活性化に役立つ形で活用できるならこんなことにはならなかったはず。

そんな中で消費税は増税するが、一方で法人税の減税を実施し企業による経済の活性化を期待といった話もあり、おりしも一昨日の日経新聞のコラムでは・・・「経営の進路、政府に頼るな」と題して政府に税金を預託し成長戦略をゆだねるのは危険だしお門違い、成長戦略は企業経営そのものなのだといった話も。

ですが減税で潤った企業が政府以上に有効な投資をするかというと・・・全ての企業ではないにしてもバブルな時代の乱脈投資や怪しげな金融投資で資金を消耗した時代の記憶もあり懸念は残りますよね。

とにかく極論に走らず、財政健全化への資金利用と経済活性化への資金利用のバランスをとり、そして何より今後数十年を牽引していける新しい技術や産業を生み出すことに民、官、政が一体になることが必要なんでしょうね。そんな中で始まった参議院選挙、結果が日本にとって吉と出るのか凶と出るのか・・・心配ですよね。(2010,6,30)


◆参院選・・・結果は活性化どころではない、意表をつく展開に?

(2010.7.18追記)荒れ狂う激しい梅雨の中で終わってしまった参議院選挙。感じていた気配以上にドラスチックな結果になってしまいましたね。
投票した人もされた人もが一瞬息を呑み・・・万歳も落胆も飲み込んでしまったかのような沈黙の世界が今広がっている・・・そんな状況ですよね。

これが日本国民が出した回答なのでしょうが・・・イエスとかノーとかではなく、ポンッと何もかも突っ返したような感じがしないでもない。それを手前勝手な勘違いをせず、真摯に受けとめて立ち上がってくれる政党はあるんでしょうか?そしてこれからどんなドラマが始まるのでしょうか・・・
by c_mann3 | 2016-05-13 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆世界を知る力・・・そして知を志す覚悟

[H22.3.14載]普天間基地移設問題、外交密約の有無・・・日本の拠って立つスタンスにかかわる話題が続いていますが、こうした問題は理念や方向性と現実の間をどうつないでいくかが難しいんでしょね。そうした中で一冊の本が出ています。

題して「世界を知る力」、寺島実郎著、PHP新書646です。

この本は三井物産、ブルッキングス研究所、日本総研といろんな所に身をおきながら世界を見つめてきた著者が、その世界観とそれを構築してきたプロセスを熱く語った本なのですが、それによると・・・

いま世界は一極化、二極化と言った視点では捕らえられないネットワークの時代に入っている。旧大英帝国ネットワーク、華僑や台湾を含めた大中華ネットワーク、そしてアメリカを節にしたユダヤネットワークに情報と人、物、金が集中し益々強固に・・・

にもかかわらず日本からはそうした風景が見えていない。戦後60年、日本人はアメリカを通して世界を見る習性が身についてしまった。そのため日本人の国際性や世界観はある種の鋳型に閉じ込められ、戦前よりも劣る状態となってしまっている。

自身で情報を集め、世界観を組み立て、それを基に連係のネットワークを広げていくことが不可欠だが・・・たとえば日本には世界に通用する通信社と、シンクタンクが無い。世界中の情報をかき集める通信社と、その情報を基に世界観を組み立てるシンクタンクがなければ、情報も世界観もアメリカからの借用が続かざるをえない。

同じことは一人一人の個人にも言える。だから書を持って街に出よう!・・・街に出て拾い集めた情報はそれだけでは断片的な知識に留まる。それは書とつき合わせながら吟味して始めて新たな世界観の構築に繋がる。大空から俯瞰する鳥の眼と、生身の情報を取り込むための地面を這う虫の眼の双方が必要だとも。

そして何よりも“世界を知る力”と題した最終章の副題が“知を志す覚悟”とあるように、情報は教養の道具ではないし、知は覚悟を持って不条理と向き合うためのものであり、情や意と一体のものなのだと・・・

著者は民主党政権に極めて近いといわれているだけにこの本を読むと、アメリカとは友愛と対等の立場に立ち、アジアとの新たな関係を目指そうとする民主党路線の源を髣髴とさせるところが随所に出てきます。ですが一方において“知を志す覚悟”といった最終章を読むにつけ、理念が表層的な言葉として二転三転し空を舞うかに見える民主党の現状は著者の篤い思いとは距離があるのでは・・・などと思った一冊でした。

ところで著者は今、大阪の梅田北ヤードにアジア太平洋研究センターを開設することを推進中だとか。著者の言うように、世界から人と情報を引き付ける磁場のような情報センター、シンクタンクとして育っていくといいですよね。(2010.3.14)
by c_mann3 | 2016-05-12 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆国家戦略・・・

[2009.10.21掲載]先日、出張で大分空港に舞い降りました。

そこからホーバクラフトで大分市内に・・・ところがこのホーバフェリー、なんと今月いっぱいで廃止に。
一年前、重油高等のあおりで若干の値上げはしていたのですが、それでは追いつかなかったのか倒産。国内最後のホーバクラフトが消滅ということで乗客があちらこちらで写真に収めていました。バスでは湾を半周し一時間以上もかかる市内にホーバなら30分、これからは不便になりそうです。

b0050634_1563861.jpgホーバだけでなくおりしもJALの経営行き詰まりが国家の緊急課題に。今は便数も多い大分空港もJALやグループのJASの減便という事態にでもなればさらに不便なことに・・・
続いて大分から車で南下したのですが最近は高速道路が開通し、以前は山道を2~3時間かかっていたところが何本ものトンネルをつきぬけ今は一時間で到着してしまう。圧倒的な利便性ですよね。ですがこの道はその先の宮崎まではまだつながっていない。おりしも政権交代で新しい道路の建設には暗雲が・・・東国原知事の「いま道路建設をやめてもらっては困るんですよ」との悲痛な叫びが聞こえてきそうです。

重油高騰、大不況、政権交代・・・そうした中でいろんなものが変わり始めています。課題が山済みの中で新政権はどの大臣も痛々しいほどがんばっている感じがします。毎日のニュースを見て大臣を痛々しいなどと思うのは初めてのような気がしますが、事態は遠慮会釈なくあるものは失われ、生まれかかったものも出口がふさがれつつあり、先はまだ見えない。

利権まみれの土木事業はいったんリセット、コンクリートから人への予算移動。そのこと自体は大賛成だとしても・・・いったんリセットし落ち着きを取り戻した後は、新たな基準での地方のインフラ整備もまだまだ必要。
そうしたことも含めての国家戦略室発足なのでしょうが・・・リセットの後の国家戦略って難しそうですよね。

ふと・・・すべての道はローマに通じるなどといって広大な版図の隅々まで道路網を建設し、行く先々の都市で水道、下水、はてはコロシアムや浴場といつた娯楽施設までを整備していったローマ帝国の強さ、執拗さに思いをはせ、かの国では途中で息切れや躊躇はなかったのか・・・などと妙なことが気になったりする昨今です。

◆2010.7.19追記・・・国家戦略室が格下げに

7/18、難しいことは分った上でで発足したはずの国家戦略室が一年を経ずして、局に昇格するどころか首相の一諮問機関の位置づけへと格下げされたとの報道が・・・

パックス・ロマーナになぞらえて一時はパックス・ジャポニカなどと持ち上げられかかったことさえある日本ですがそれは幻想、やっぱり日本には国家とか、戦略といった言葉は似合わず、身にもつかないってことなんでしょうか・・・
by c_mann3 | 2016-05-10 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)

◆まぶしく輝いていた国・・・日本、アメリカ

〔2007.4.22載〕本日付の朝日新聞コラム欄によると・・・
先住民で初めて大統領となったボリビアのモラレス氏が来日。天皇陛下と謁見し感動、安倍総理とも会見。
総理との会見では欧米とは異なる伝統を大事にし平和尊重や環境の面で世界の模範となる価値観を持った国と日本をたたえ、これから制定する新憲法には日本と同様の「戦争放棄」を盛り込むとの考えを示したとか。

ボリビアに限らずいろいろな国で多くの人たちが、かつてのアメリカや日本を尊敬し、兄と慕っていたという話はよく耳にします。

ずいぶん昔の話ですが、東西冷戦の時代に時折紹介されていた「ソ連映画祭」で見た映画の中で、なんとも意外で印象的なシーンがありました。帝政ロシアが崩壊し夜明けは迎えたがまだ次の世界がよく見えなかったころのソ連邦で、素朴な農村の人たちが新しい時代に向かって勉強をと、なぜか英語にとりくんでいる。そこでテキストに描かれているワシントンを英国から独立を勝ち取った英雄として、まるで天を仰ぎ見るようなまなざしで感心しているシーンがありました。
似たような話はベトナムにも・・・ホーチミンが尊敬していた人はなんとワシントン。

日本でも・・・清国末期のころ列強に支配されない新しい国づくりを目指してたくさんの中国の若者たちが日本に留学していた時代がありました。

英国から独立を勝ち取ったアメリカ、維新を成功させついに列強に支配されることのなかった日本・・・16世紀から19世紀にかけて植民地支配に苦しんでいた各国の人たちにとって日本やアメリカは“話せばきっと分ってもらえて、助けてももらえるに違いない兄貴分”だった時代があったようです。

それは左とか右といった次元の問題ではなく、しっかりした価値観や伝統に基づき民族や人民の尊厳を貫く姿に明日の自分をオーバーラップさせたものだったのかもしれません。
ですがやがて思いは打ち砕かれる。・・・慕うアメリカに相手にしてもらえなかったベトナムはソ連と手を結ばざるを得ず、日本に来ていた留学生たちはすべて国外退去に追い込まれ、気がつくと追い討ちをかけるかのように自国に踏み入ってくる日本の軍隊。

まぶしく輝いていたころがあった国・・・日本、そしてアメリカ。
だが熱いまなざしで見つめられていたころはその自覚がなく、そうした人たちの希望を打ち砕いてしまった国・・・日本、そしてアメリカ。

そしてなぜか今頃になってかつての美しい国、清く正しかった時代への回帰に目覚めた国・・・日本、そしてアメリカ。
ですがその回帰先がどうも怪しく、回帰の手法もちょっと強引。

すでに川を越えてしまったアメリカはともかく・・・何によって輝くべきかを考え始めた日本が道を誤らないように・・・そして失望と敵意の輪をこれ以上広げないように・・・今ならまだ間に合うのかもしれません。

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(2009/2/8追記)・・・憲法改正、チェ・ゲバラ
モラレス大統領の新憲法案がついに国民投票で承認されたようです(1/27)。先住民の権利拡大、先住民の言語も公用語化、下院議席に先住民枠と画期的な内容とのことですが、白人層との対立は続いたままだとか・・・
おりしも今、日本ではチェ・ゲバラの映画「チェ、28才の革命」、「チェ、39才 別れ」の2部作が公開され好評を博しています。ゲバラは1966年、ボリビアに潜入しゲリラ活動を開始はしたもの機は熟さず、共産党の協力も住民の支持も得られぬままあえなく玉砕・・・

処刑される前の尋問で受けた「この革命は失敗だったとは思わないか」との問に、「ボリビアの人民はこの失敗をきっと教訓にしてくれる」とつぶやいていたのが印象的でしたが・・・それから40年余りを経てついにその日を迎えたということなのでしょうか。

(2010/10/11追記)・・・どうやらイランも
最近読んだ感動的な本、春日孝之さんの「イランはこれからどうなるのか」新潮新書384・・・この中でもホメイニやイラン国民が実はアメリカが好きだったといった話が出てきます。アメリカは本当に好意を持っていてくれていたいろんな国を敵に回していそうです。
by c_mann3 | 2016-05-08 00:00 |  ・・・風にまかせて・・・ | Comments(0)