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組織と創造性:行動科学 VS 認知科学

個人のレベルでの創造性自体の話を続けてきましたが、このあたりで「組織心理学」トピらしく、“組織と創造性”ないし“組織の創造性”といった話にシフトしていきたいと思います。

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Finkeの「創造的認知」を読むうちにひょっと懐かしくなり久しぶりに古い本を引っ張り出してみました。
名付けて「創造の行動科学」D.C.ペルツ、F.M.アンドリュース著。1966年、ダイヤモンド社刊。副題は“科学技術者の業績と組織”、行動科学全盛期の名著といったところでしょうか。
これは副題が示すとおり、単なる創造性の枠を超えています。“自由性、コミュニケーション、多様性、献身、動機付け、満足度、類似性、創造性、年齢、雰囲気、集団”といったファクターと技術者の業績の関連性を徹底的に調査し、数百項目にわたって相関検定表やパーセンタイルのグラフ付でコメントにまとめたもの。行動科学の本らしく、コメントは憶測、推測を廃しストイックで簡潔です。いくつかを例示しますと・・・

●多様性の影響については、
・研究開発の直接業務だけに専念する人より、時間の数割を管理業務等の副業に使う人が業績が高い。
・専門を一個しか持たない人は複数個持つ人より業績が低いだけでなく、専門を持たない人よりも低い。
●創造性については、
・自由なコミュニケーションがある場では創造性が業績に貢献するが、柔軟性のない場では逆に阻害する。
・プロジェクトに参加した当初は創造性が業績に貢献するが、長期にわたると逆に阻害要因となる。
・高レベルの研究職では強い献身、のめりこみが創造的成果を加速するが、他の職種では逆の傾向がある。

何れも研究部門と開発部門、ドクタークラスと一般技術職といった区分ごとに分析されており答えも一様ではありませんが、40年近くの昔のしかもカルチャーの違う外国のデータであるにもかかわらず、今読み返しても鮮度を失っていません。なるほどといったものだけでなく、意表を突かれる意外な結論といったものも少なからずありますが、意外と思えるものも研究開発部門の現場で周りを見渡していると少しずつそう見えてくるのが不思議です。


余談ですが・・・

前掲のFinke著「創造的認知」は、その名のとおり、創造性を認知科学的に扱ったものです。ジェネブロアモデルはそれを構成する“生成、探索、制約”の各要素についていろいろなモデルを想定し認知実験を繰り返えすことで検証を積み重ねた体系ということで、この本では綿密に仕組まれた実験の過程や結果が満載されています。
対して今回の行動科学では、ひたすら外部から観察できるパラメータ間の相関分析を列記したものであり、どもページも相関検定表とパーセンタイルグラフで埋め尽くされている・・・二つの本を並べて読むとなんとも不思議な感じがしてきます。

この二つ、学としての成果を活用する市井の立場からするとどちらがいいんでしょうか・・・

行動科学は欲しい因子についてずばりの調査結果があれば即、頂きということで手っ取り早い感じもしますが、それで更に興味がわき「それってどうしてなの?」といった疑問が沸いたとしてもそれについてはノーコメントで後は自己責任で推量するしかないといった感じがします。
対して認知科学はモデルの構成自体が思考のヒントになり、かつモデル構成要素の部分部分でも実験的な裏づけがあるものが多く、自分の思考体系をできるだけ実証されたものに置き換えていきたいとと思って知識を吸収しようとする場合はこちらの方が得られる情報が多いといった印象はあります。
by C_MANN3 | 2009-08-20 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(1)

組織と創造性:知識創造と知識調達

知的資産経営、ナレッジマネジメントということが言われ、企業が生命力を維持するためには知識の持つ価値がますます重要ということになりつつあるようですが・・・
だとするといかにしてこの知的資産を確保するかが問題、ということでいろいろ調べていくうちに一見、真反対といえるほどに距離のある一対の論理に遭遇してしまいました。
ひとつは「知識創造」、もう一方は「知識調達」。方や人の持つ主観レベルの暗黙知を育てることに注目し、もう一方はすでに明確化した知識をいかに外部から調達するかを論じており、困ったことに双方ともに恐ろしいまでの説得力を感じさせてくれます。

【知識創造】
これは一橋大の野中郁次郎さんがホンダをはじめとするイノベーション型日本企業を調査した結果をもとに提唱するSECI理論。知識には暗黙知と形式知があるが破壊的想像につながるのは暗黙知から出発したもの・・・この暗黙知をメンバー間で共感し(S)、概念化し(E)、結合し(C)、具現化(I)する。このプロセスからメンバーの主観領域にさらに新しい暗黙知が生まれ・・・これが循環することで革新的な知識が創造されていく。このプロセスを理解し推進するナレッジプロデューサが日本企業を変えていくのであり、形式知のみに注目したIT化やベンチマーク、目標管理といったものは企業の知識創造を阻害するだけというわけです。
詳しくはリクルートワークス研究所発行誌の42号に・・・ 
http://www.works-i.com/pdf/w_042.pdf
号一括で51MBありますがよろしければ・・・そのp60(pdfとしてはp32)が該当記事です。

【知識調達】
対して知識調達。自分で知識創造できると信じて外部技術の導入に抵抗する人たちをNIH(Not Invented Here)症候群と切り捨て、外部知識の調査、導入判断、調達、取り込みと定着といった全工程を調べ上げ阻害要因を廃し、調達を成功させる処方箋を提示しています。調達を阻む要因はNIH症候群をはじめとする組織風土や業務プロセスなどがあり、成功させるためにははっきりした形での知識調達プロデューサが必要ということのようです。
詳しくは同じくリクルートワークス研究所発行誌の51号に・・・
http://www.works-i.com/pdf/w_051.pdf
号一括で6MBありますがよろしければ・・・そのp5~7が該当記事です。

この二つの理論、まるで真反対のようでドッキリなのですが、落ち着いてよく読んでいくと、一方はベンチャー型の破壊的創造で突き進む企業の開発現場、もう一方はNIH症候群を抱え込んだ名門成熟産業が大規模な方向転換を余儀なくされる場面というようにシチュエーションによって適合が変わるといったことなのかもしれません。

とはいうもの経営環境が激変する今日、いろいろな企業の開発現場で図式化するとこの二つの勢力が路線闘争を繰り広げていると言った風景が浮かび上がってきます。
状況によって適、不適があると理屈では冷静なことをいっていても、技術者のメンタリティのレベルでは、この二つの路線にはほとんど相容れないほどの相違と距離がある・・・何らかの事情で急激な路線の変更が行われる職場ではおそらく恐ろしい心象風景が展開されているのではなどと・・・多少自分自身のことともオーバーラップして・・・思わざるを得ません。 (2005.2.8)
by C_MANN3 | 2009-08-18 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

◆「ビジネス・インサイト」・・・

これぞまさに暗黙知の世界といった本が出ています。
題して「ビジネス・インサイト」、石井淳蔵(流通科学大学長)著。岩波新書の1183です。

強み伝いの経営は破綻する。会社は跳ばなければならない。形式知による実証的な手順では強み伝いの道しか歩めず、その先には消滅がまっている。

といった恐ろしいフレーズから始まる本なのですが、新たな価値を求めて跳ぶためには知の隠れた力、ポランニーのいう暗黙知の活用が必要であると。

それは・・・
▼独自の課題を嗅ぎ取り、その背後に潜む構図を感じ取って、
▼十分な検証はできなくともその妥当性や確からしさを確信し、
▼それは、努力が傾注されるに見合う価値ある何かであることを信じて邁進する世界である。

暗黙知とは単に言語化されていない知識といったものではなく、もっとダイナミックなプロセスである。
対象に対して距離をとり客観性を確保するのではなく、対象の中に棲み込んでいくことでのみ暗黙知は作動し始めるとのこと。

また、製品はそれ自体が価値をもつわけではない。当初の目的からは思いもよらなかった市場で花開いた制振鋼板を例にとり、価値は市場とのコミュニケーションの中から芽生えてくるものであり、マーケティングとは市場とともに姿を変える価値創出のコミュニケーションプロセスなのだとも。

キットカット、セブンイレブンのコンビニ、宅急便、スーパーのダイエー・・・こうした事例で解説が進み読みやすくて迫力のある一冊です。

▼内なる確信・・・
それにしても暗黙知の話では常に“内なる確信”といったものが重要な原動力になっているんですよね。データもそろわず、まわりの賛同もそろわない中での確信。

この確信が推進エネルギーとして必須でありながら、実はこの確信の良否が成果の良否を決める。
いま固まりつつある“内なる確信”が思い込みでも固執でもなく、未来を切り開く良質な確信であると確信するよりどころ・・・それがポイントなのでしょうが、難しいですよね。まずは少しでも直感の質を高める・・・そんな記事が別掲にも。(2009.6.28)
by C_MANN3 | 2009-08-16 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

組織と創造性:ものづくり経営学・・・

前掲(ひとつ上にスクロール)の記事“知識創造と知識調達”もそうですが、“うまく抽出された対概念”は企業組織が持つ特質をくっきりと浮かびあがらせ、風景を見る視座を一変させてくれる感じがします。

同じようにたった一つの対概念、“「すりあわせ」と「組み合わせ」”をペースに広範囲な“ものつくりの世界”を描きつくした面白い本が出ました。
題して「ものづくり経営学」、東京大学ものづくり経営研究センター編。光文社新書で先月(2007年4月)発行の本です。

◆すりあわせ、組み合わせとは・・・

ものづくりのプロセスは「すりあわせ(インテグラル)型」と「組み合わせ(モジュラー)型」に区分される・・・
ある製造現場で取り扱う部品の外的取り合い(インターフェース)が標準化されていて、それを組み立てる際も取り立ててノウハウ的な配慮が要らないものがモジュラー型、対して個々の部品が専用設計されていて、組み立て時もなんだかんだと調整やノウハウが必要なものがインテグラル型ということのようです。

しかもこの区分は川上の部品メーカーレベルと川下のアセンブリーメーカーレベルで個別に見ることも可能であり、たとえば自動車は部品も組み立てもインテグラル型の業種ですが、自転車業界ではインテグラル型で作られたシマノの自転車ギアコンポーネントをモジュラー型のアセンブリーメーカが仕上げているといった感じで扱われています。

◆この切り口から見えてくる風景は・・・

川上と川下の組み合わせで変わる製品アーキテクチャと、それを取り扱う組織能力のマッチングでその業界の競争力や生産性が異なるということなのですが、
これを元に分析すると日本の製造業は「すりあわせ(インテグラル)型」に強く、組織能力もこれにマッチするよう形づくられている・・・

インテグラル型の工程や企業はノウハウ的な技術密度が高く他社や他国の新規参入を受けにくいが、モジュラー型の企業や工程は量産規模拡大による低価格競争に陥りやすい・・・

面白いのはアメリカや中国といった各国の競争力の源泉がこの理論で見えてくること。
なんと、アメリカと中国は「組み合わせ(モジュラー)型」。ただしアメリカは構想力に強い知識集約型のモジュラー型、対して中国は動員力が強味の労働集約的なモジュラー型。インテグラル型の日本にとって、うまくすみ分ければ中国は日本の脅威にはならない・・・

また日本がインテグラル型で高技術密度の高機能商品として作っていたものが中国の手に渡ると・・・バイクや携帯電話に見られるように、機能の簡略化と標準化がなされて低賃金の単能工でも取り扱えるモジュラー型ビジネスに変身し、市場を一挙にそこそこの品質の低価格商品が席巻するものに変えてしまう・・・

さらに、組織能力はベースとする製品アーキテクチャにジャストフィットする形で進化しているため・・・「すりあわせ型」の会社に「組み合わせ型」の企業風土で発達した外来の経営制度をむやみに導入すると混乱を招くとか、「組み合わせ型」をベースに開発された欧米のCADシステムは日本の「すりあわせ型」企業ではしっくりこないといった話も。

この製品アーキテクチャと組織能力といった分析法は単に製造業だけでなく、流通業、金融業にいたるまで適用可能ということで分析した事例は広範囲に及びます。
あれやこれやでものづくりや産業の形態を考える際には使って役に立つ面白い視点、・・・新書版とはいっても通常の倍ほどの分厚さがありかなり濃厚ですが、とにかくお勧めの一冊です。(2007.5.6)
by c_mann3 | 2009-08-14 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

組織と創造性:ものづくり経営学・・・《続》

ものづくりにおける「組み合わせ(モジュラー)型/すり合わせ(インテグラル)型」・・・この対はいろんな思索を整理するには意外に使い勝手のよい概念対なのかもしれませんね。

考えてみるとヨーロッパのマイスターに代表されるような熟練技術者を前提にした工芸的工業(すり合わせ)の時代から、アメリカ大陸で始まったベルトコンベアーと素人単能工による大量生産(組み合わせ)の世界へと時代は大きく変わりましたが・・・それでマイスター的な産業が消滅したわけでなく、いろんな国のいろんな産業で両者は濃淡を入れ替えたり重ねたりしながら今の産業を形作っている。

マイスターや日本の匠の世界には何百年といった伝統が背景にある。特徴としては長期修業と非分業。師匠と弟子の関係は一生続き、一人前になるには数十年を要する。今で言うなら終身雇用を前提に積み上げていく多能工的な世界。付加価値のほとんどが現場の匠の指先と五感から発生する。設計と製造も分離していない。暗黙知と形式知でいえば暗黙知が主力。

そうした伝統的な産業構造の対極にある戦略は、設計と製造の分離。短期就労の非熟練単能工でも成り立つように製品のアーキテクチャーを徹底的にプレデザインする。付加価値は事業化の算段を含めた企画、設計段階でほとんどを確保。後は資本力と人海戦術で一気に打って出る。こうして近代的な「組み合わせ産業」の時代が出現したといえなくもない。

もちろん「組み合わせ VS すり合わせ」というのは概念上の仮想的な両極。いったん両極の風景が固まれば、その組み合わせ、強弱は無限。社会的な背景を含めた状況や目的に応じて最適なポジションに到達したものが競争優位に・・・といったことなんでしょうか。

逆に言うと最適なポジションというのは絶妙なバランスの上に立っている。そしてしばしば自覚すらしていない状況にさえもジャストフィトして競争優位を保っている・・・良かれと思って年功序列を崩すと、良かれと思って技術革新をすると、万能と思って新しい世界に進出すると・・・再びバランスの崩れた世界に迷い込む可能性は無くもない・・・

さらに「組み合わせ」と「すり合わせ」はしばしば同じ市場で主従が替わる。電子機器の世界でアナログが一挙にディジタルに入れ替わるように「すり合わせ」はある日突然「組み合わせ」に市場を奪われる。あるいは「組み合わせ」の中の要素の中に封印されて隠れ「すり合わせ」技術となることもある。だが、「すり合わせ」が高度な付加価値を含むことには変わりなく、今日もどこかで新たな「すり合わせ」の世界が生まれいいる・・・

などと・・・「組み合わせ VS すり合わせ」の対概念は、これからもいろんなことを考えさせてくれそうです。(2007.5.18)
by c_mann3 | 2009-08-12 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

組織と創造性:プロジェクトXの共通因子。

今なお根強い人気のプロジェクトX。続けて見ていますとそこにはいろいろな共通因子がうかがえます。そのひとつが“隠れプロジェクト”。もちろん成功したプロジェクトの多くは、トップを含めて全社一丸となってといったものなのですが・・・興味を引くのは、そうした合間に少なからずのプロジェクトが、会社には反対され、部門はつぶされるなかで・・・まるで隠れキリシタンのごとく、雌伏何年といったものが混じっていることです。
最近の例では、富士通のプラズマディスプレイ、そしてシャープの液晶。

そうしたものを支えているのは例外なく、個人の情念。そしてそれを潰しにかかる会社の中で一人、また一人と現れるついたて、防波堤役の人、協力者。

彼らのロイヤリティーは一体誰に向かってのものなのか。彼らのモチベーションは一体何に根ざしたものなのか。

富士通のプラズマ開発者の場合、子供のころ近所で始めて見たテレビの不思議さに魅入られ、ひたすらテレビの開発にあこがれ続けていた。たまたま入った会社で表示ディバイスを開発していても、会社がそれを単なる数字の表示機としてしか認識していない中で勝手にこれが将来子供のころからあこがれていたテレビを壁掛けにする手段と決め込んでしまっていた。
敵は本能寺・・・同床異夢・・・いろんな言葉が浮かんできますが、サラリーマンは組織の指示に従うものと思いきや、おかれた立場とは異なる夢を追い求める不思議な人たち・・・

富士通のプラズマとそっくりの話はシャープの液晶でも潜伏していたようです。今をときめくシャープの液晶テレビも出発は数字の表示。別に数字を表示したくて始めたわけではないのに、最初の立ち上がりは電卓の答えの表示。しかも電卓屋さんが期待して望んでいたわけではなく、ましてや会社が指示したわけでもなく、埒が明かないと液晶表示の研究チームは解散させられ、それでも液晶を続けたくて、まるで赤の他人の会社に頼み込むようにして電卓の事業部に売り込んだのが液晶商品化の始まり・・・

会社がやめろといっているのだから、それで終わりにしても誰も文句は言わない。その瞬間、瞬間の指示に従うのが会社へのロイヤリティーだとするとそれは当たり前の行為ということでしょう。
口で止めろといってもやめない、部をつぶしてもやめない。辞令を切って持ち場を変えても手を変え品を変え、潜伏してでも続けようとする不思議な社員の存在。組織を構成する多数の一般的な社員や管理職からするととんでもない人種・・・
したがって一般的に言って身は危険。こんな危険を犯す人は多くはないが、結果的にプロジェクトXとして生き残る人は更にわずか。それでも突き進むこの人たちのモチベーションはいったい何なのか・・・

こうした場合、会社が一方的に理不尽かというとそう単純な話でもない。大体においてそれが“単に我を張った固執”なのか“深い洞察、信念に基づく可能性を秘めたもの”なのかが、客観的に見てもすっきりしないことが多い。それなりの審議を尽くして中止と決めた以上、つぶしにかかるのは真っ当な業務手続としか言いようがないのかも・・・

ですが・・・つぶす側にも何がしか心に引っかかるものはある・・・隠れキリシタンが闇夜で光明を求めて祈り続ける姿に気がついた人たちの間で、もしその祈りの姿にオーラが出ていればの話ですが・・・ひとり、またひとりと・・・かくまったり、ともに祈ろうとする人が現れる。そしてその輪が大きくなったとき、捨てたはずのテーマで会社が救われる日がくることがある・・・

組織の中での創造性、信念、モチベーション・・・どれもが重要な資質として、持つべきものとされていながら・・・こうしたものは本気で持ってしまうと厄介で危険で取り扱いにくいものと紙一重の世界に入っていくものなのかもしれません。 (2005.2.8)
by C_MANN3 | 2009-08-10 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

◆隠れキリシタンと「育てる経営」

前掲記事で「プロジェクトXの共通因子」と題して・・・

>会社が口で止めろといってもやめない、部をつぶしてもやめない。辞令を切って持ち場を変えても手を変え品を変え、潜伏してでも、自分の信じた開発テーマを続けようとする不思議な社員の存在・・・これを「隠れキリシタン」になぞらえた記事を書いていたのですが・・・

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朝日新聞の書評欄を見ていて面白い記事を見つけました。題して「〈育てる経営〉の戦略」、副題は“ポスト成果主義への道”、著者は高橋伸夫さんです。(2005.6.12付け)

http://book.asahi.com/review/TKY200506140205.html

高橋伸夫さんの<育てる経営>の中では、かつての日本型経営の特徴のひとつとして・・・

>育てる経営の基本機能の中に「やり過ごし」がある。上司の指示を自らの責任において無視することにより、判断力を養っていくのだ。やり過ごしのできない部下は無能なのだ。ついでに言うと指示を無視されて怒り狂う上司も無能だ。育てる経営とは、随所にそういった非合理性に支えられている。それが、すべて合理的でないと気がすまない成果主義では生き延びられないのだ。

・・・といった表現があり、なんか隠れキリシタンとよく似た話だと、嬉しくなってしまいました。上司の指示をやり過ごせない部下は無能、それを見て見ぬふりができない上司も無能・・・なんとも味わい深い表現です。

ところで話は変わりますが・・・この本の評者は天外伺朗さん。ソニーの役員でかつ、文筆家。朝日新聞の書評欄は書評自体が最高のエッセイ、原本なんか読んでも読まなくても十分・・・といった迫力のある評者が多くて読むのが楽しみなのですが、中でも山形浩生さんが降板してしまった今、私の一番のお気に入りの方が天外伺朗さんです。(2005.10.10)

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(以下は2005.10.20追記)
評者の天外伺朗さん、実はソニー特別理事の土井利忠さん。ソニーでいくつもの革命的な商品を開発した方で、ペットロボット「AIBO(アイボ)」の産みの親でもあるとのこと。

ですが、ちょっと気になるニュースが・・・
新しい会長ハワード・ストリンガー氏を迎えて再出発するソニーが経営体質の強化を目指した新らしい中期経営方針を発表。その中でなんと、ロボットのR&Dは縮小とのこと・・・
ホンダのアシモやトヨタのトランペットロボット・・・急速に立ち上がる日本のヒューマノイドロボット開発ブームの導火線になった感もあるAIBOの開発縮小は残念の極みです。

きょうもAIBOをさらに賢くチャーミングにするために心血を注いでいるに違いないソニーのロボット開発チーム。
そこに縮小の指令が届いたとき、チームはどういう反応に出るのでしょうか。“上司の指示をやり過ごす有能なチーム”となるのか、はたまたソニーには似合いそうにもない“隠れキリシタン”などというものが誕生するのか・・・気になるところですが、がんばれAIBO! 生き続けよAIBO!・・・と願わずにはいられません。

ついでにもうひとつ、このブログと同名の商品「クオリア」シリーズについても新規の開発はとどめおくとか・・・なんか寂しい。

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(以下は2006.1.27再度追記)
がんばれAIBO!の期待もむなしく、昨26日、ソニーはAIBOの生産を3月いっぱいで打ち切ると発表しました。これで99年に登場し世界で約15万個売れたAIBOは、ついに姿を消すことになります。
ロボットについては研究開発のみを縮小としていた前回の不採算事業縮小方針からさらに選択と集中を進めることとなった模様です。しかも最高級ブランド「QUALIA(クオリア)」についても完全撤退。

ですが、あわせて発表された今3月期の決算見通しは100億円の赤字から700億円の黒字に上方修正の予想。一夜明けた今日、ソニーの株価は前日比で14%の急伸となりました。・・・なんか割り切れないですよね。
by c_mann3 | 2009-08-08 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

組織と創造性:癒し系、田中耕一さん

突然、ノーベル賞に輝いた田中耕一さん、この方の場合は、肉親を失っていたことで医学に興味があったらしく・・・島津にきてみると医学機器の開発ができるとわかって・・・工学部を出ていても医学への貢献ができるんだ!・・・と思ったという話が紹介されていました。この方も“心は目の前の直接的な企業目的とは少し違う、「敵は本能寺」人間なのかも”・・・などと不謹慎なことをふっと思ってみたりもします。
それにしても、田中さんのあのマイウェイ、マイペースの雰囲気はどこから来るものなんでしょうか・・・

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“田中耕一さんは国民的癒し系サラリーマン”などというフレーズを週刊誌のつり革広告で見かけました。確かに田中さんがデビューした瞬間の風景、風貌、その後紹介されるいろいろなエピソードを見たり聞いたりしていると「癒し系」って感じがありますよね。

でも私たちは田中さんのどういうところに、癒しを感じているんでしょうか・・・

考えてみると現代は、優秀な学者、あるべきビジネスマン、あらゆる世界でこうしたあるべき姿と言うものがパターン化され、マニュアル化され、しかもそれがどんどん精密化されていく・・・そうした世相を前にみんなの心の中で“とてもそんな風にはなれない、それって何かおかしい”という違和感が少しずつ大きくなり、それが一種の閉塞感となってたちはだがっていたような気がします。・・・そんな中で突然現れた田中さんがノーベル賞に輝きながら、耳にたこができるほど聞かされてきたはずの優秀人物像とはまったく違う。
この瞬間、心の中でずっとくすぶり続けていた違和感は故なきことではなかったのだ・・・やっぱりあるべき優秀パターン以外にも優秀はありえたんだという、ほっとした感情が人々に不思議な癒し感をもたらしているんじゃないか・・・ふとそんなことを思ってしまいました。

学部時代は単位を落とし、苦手科目の受験がいやで修士には進まず、憧れのソニーには採用されず、時期が来ても管理職昇格試験はボイコット・・・ひたすらマイウェイ、マイペースでただただ好きな研究に没頭したい・・・やっぱりこれは、現代社会が求めているあるべき姿とは違う規定違反の厄介者、これで業績が出ていなけれは、会社はためらいもなく排除し、周りもやっぱりねと納得しそうな感じです。

現代の企業は確実な判定基準を設けて採用面接をし(だからソニーは落ちたのかも・・・)、入社後も能力、業績、昇格等の判定基準を整備しことあるたびにフィルターにかけることで、人が人を直感的に識別することによるリスクを避け、システマティックに選抜判断の成功率を高めようとしています。
こうしたマニュアル類は当初は見る人によるばらつきを減じ、基準が客観的なものとして公開されることで公平感を高め、といった効果がありましたが、それがどんどん精緻化しエスカレートするとともに望まれる人物像がパターン化され、どこか人の持つ直感的、総合的な思いとずれが出始めているのではないか・・・理で考えるとまっとうな方向なんだけど、どこか違う・・・といった感じが出始めている・・・その漠然とした閉塞感に風穴を開けた感じがあるのが田中さんということなのかもしれません。

さらに今回はもうひとつ・・・島津製作所にももちろんマニュアルはあるし、望むべき社員像はある・・・そういう中で変人、田中さんをマニュアル通りに切り捨てず、パターンは違うが才能ある社員として認め、彼を守り、温存し、その成果は商品に組み込むといった判断をされた上司なり何なりがおられたということにも、もうひとつの安らぎ感を覚えます。

社長のコメントが面白い。「一定の年齢になると実施する昇格試験も、ただただ研究好きの人にまで経済知識や経営知識を求めるような試験は見直すべきかも・・・」とのこと。
癒し系企業の癒し系社員に輝いたノーベル賞に、乾杯!
by C_MANN3 | 2009-08-06 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

組織と創造性:癒し系企業の未来

(2002/11/24記)昨日の朝日新聞、be on Saturday で田中耕一さんの勤める島津の社長や社風が大きく紹介されていましたね。
読めば読むほど、田中さんだけでなく、会社も“癒し系企業”といった感じを強くしています。

社長ご自身も変わったご経歴のようで・・・まず防衛庁、次に日本航空機製造でYS11の敏腕セールスマンを経て島津に来た時は、まるでお公家さんの世界に野武士が一人迷い込んだ感じだったとか。
研究開発の3割は未来に向けるが特にノルマや期限は求めないとか・・・社長ご自身は文系出身で、研究の良否は担当者の目を見て判断するとのこと。

この中で特に興味を引くのが、コストダウンをして大量生産するのが苦手というか・・・そういう気持ちがないということ。

いろいろ考えて見ますと多くの企業が、週刊誌のように頻繁に低コストで新機軸の新製品を出し、大量生産、大量販売することで社員をリングの中を走り続けるモルモット状態に追い込んでいく・・・
すべてのエネルギーが癒し系とは程遠い独特の方向に収斂し、まるで魔法に掛かったようにそこから抜け出すことができなくなっている。

ですが、ほかに道がないわけではない・・・それが技術的に高度で高額な商品を非量産システムで世に出し続ける、グローバル・ニッチ・トップ戦略なのかもしれません。


最近続く企業の不祥事で決まったようにいわれる言葉、「組織ぐるみの隠蔽体質」。一方の島津に感じることは・・・組織ぐるみの温存体質。
実はさすがの島津さんでも、田中さんがもっと急ぐ他のプロジェクトに移されそうな気配があったとか・・・
それを察したさる上司が、二回にわたって田中さんを英国の研究子会社に配転し、業務が継続できるようにした・・・

厳しい経済情勢の中で多くの会社と同じように赤字を抱えながら・・・それでも何か古くから引き継いできた風土めいたものを組織ぐるみで温存しようとしている企業・・・

海外の子会社まで使っての異才の温存作戦、見る目を持った上司もノーベル賞ものかもしれません。  
 
世相を近代的な合理主義で乗り切り、風土改革と称して何かを切り捨てることで輝かしい成長を確保する会社にもすばらしいものがありますが、一方においてこうした社風を多少の犠牲は覚悟の上で温存しようとする企業にも未来があってほしいと思わずにはいられません。キーワードは、非量産、グローバル・ニッチ・トップ、そして風土改革は慎重にということかも。(2005.2.8)
by C_MANN3 | 2009-08-04 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)

  ・・・次は・・・

      ◆次は「社員の熱意と意気消沈」について・・・⇒⇒


by C_MANN3 | 2009-08-01 00:00 | 組織心理学の心象風景 | Comments(0)