◆区分別読書の履歴◆ 歴史・思想系 (2/2) ◆シュメルの世界 H29/4読◇ まずは◆シュメル-人類最古の文明。小林登志子著、中公新書1818、2005年の刊。5千年の昔にメソポタミアのチグリス・ユーフラテス下流に姿を現したシュメル人の世界。それは繰り返す洪水がもたらす肥沃な土壌の中で灌漑農業を行う一方で交通の要衝にあって広範囲な世界との交易にも長け、競い合ういくつもの都市を形成して栄えた世界最古の文明であった。都市ごとに独自の神を抱き豊かな神話の世界を持ち、交易取引の記録に端を発して世界最古の文字の一つであるシュメル文字を発明。そしてこれらの都市文明は諸都市を束ねたアッカド国へとつながり集大成されていく。楔形表意文字であったシュメル文字から表音文字をも含んだアッカド文字が生まれ、シュメル神話のモチーフはアッカドでギルガメッシュ叙事詩として編集され、やがて旧約聖書にも引き継がれていく。 世界最古の表意文字であるシュメル文字が形を変え、表意から表音へと機能も変えながら色々な言語に使われていく歴史には興味深いものがありますが、この本では一章をさいてその様子が解説されています。 その中で意外だったのは、現在のアルファベットのもとになったと言われているフェニキア文字はその形からしてシュメルの楔形文字の系統だと思っていたのですが、それはもう一つの表意文字であるエジプトのヒエログリフから派生した表音文字だとのこと。実はシュメル文字から派生した表音文字もあったのだが(ウガリト文字)、フェニキア文字の方が交易を通してギリシャ・ローマに伝わり今のアルファベットに・・・ そしてもう一つの本は◆シュメル神話の世界。岡田明子、小林登志子著、中公新書1977、2008年の刊。こちらは神話の世界をさらに詳しく一冊にまとめた本なのですが・・・ シュメルの神話は洪水を繰り返す沖積平野の自然を色濃く反映している。人は神々の代わりに労働をするものとして堆積する土を捏ねて形作られたとする創世神話、そうして命を得た人たちも神の怒りに触れれば繰り返して襲う洪水に押し流され、その中で一握りの人たちが生き延びるという洪水神話・・・こうしたシュメル語で書かれた数々の神話のモチーフは時を経てアッカド人の手によりギルガメッシュ叙事詩としてアッカド語に翻訳編集され、さらには旧約聖書の土(アダマ)から造られた人(アダム)の話やノアの方舟の話の原型として引き継がれているのだと。 しかしそうして人類最古の文明を生み出したシュメル人自体は無常観が漂う数々の神話の中に、琵琶法師の平家物語をも思わせるシュメル人国家滅亡の物語をも残して紀元前2千年にはメソポタミアの地から姿を消していく・・・なんとも魅惑的なシュメルの世界ですが、その魅力をたった二冊の新書版に要約してくれている著者に感謝です。 ◆ジャポンヤ --イブラヒムの明治日本探訪記-- H28/3読 ◆イブン・バットゥータの世界大旅行 H28/4読 ◆甦れ、わがロシアよ H27/12読 ◆ロシア人しか知らない本当のロシア H27/12読 ◆物語 チェコの歴史 H29/2読◇ 9~10世紀の頃、この地にはモラヴィア国が隆盛を極め、東ローマ帝国に懇願し招請した修道士キュリロスが考案したグラゴル文字(これが後にブルガリアにわたってキリル文字となり、広くスラブ正教圏の国々に)で表わしたスラブの言葉で神に祈るキリスト教国を目指していたとか。だがマジャール人の進入を受け、対抗のために東フランク王国と手を組んだものの力及ばすチェコ、ハンガリー、ポーランドの三国に分裂。そのいずれもがラテン・カトリック圏となってしまい、独自の文字を使いスラブ語による典礼を行うキリスト教国へとの夢はついえることに。 そうして生まれたチェコ王国はカレル4世の時代に最盛期を迎えカレルはチェコ王冠諸邦の王、ドイツ王、神聖ローマ帝国皇帝を兼ね、首都プラハは中央ヨーロッパの要となる。ところでチェコの国名“チェコ王冠諸邦”というのは不思議な名称ですが、その心は国王の上に聖バーツラフの王冠を置き、国王もチェコを構成する諸邦の候と共に王冠を支えるということのよう。 同じくこの時代に設けられた制度が“選帝侯”。こちらは神聖ローマ帝国の皇帝がチェコ王を始めとする7名の国王により選定されるということのようであり、諸侯、諸国の主権を強く残したうえで(余計な戦争を避け大人の話し合いで)さらに大きな単位で纏まろうとするこうした制度は今の連邦共和国、EC等にもつながるヨーロッパの生活の知恵なのかもしれません。 * ◆物語 ウクライナの歴史 H27/6月読◇ この国はかつてはロシア(モスクワ)、ベラルーシをも包含し広大な版図を有していたルーシ公国を源に持ち、首都キエフを中心に栄えたヨーロッパの大国であった。ところがその版図の北部のモスクワ公国がルーシ(つまりロシア)の名を持って独立し、さらにはベラルーシもルーシの名を持って独立・・・。で、残された地はやむなくキエフ・ルーシー国と呼ばれるようになり、その後はモンゴルに侵攻され、さらにはリトアニア・ポーランド、ロシア、オーストリア帝国、そしてソ連邦へと、(途中コサックの栄光の時代を挟みはするが)その時代時代に勢力を持った近隣の大国に飲み込まれ続けた。 だがそうして国としての輪郭を持てなかった時代にあっても常に、豊かな大地、資源、技術力を背景に重要な地であり続けてアイデンティティを保ってきたのがウクライナ。そして迎えたソ連邦崩壊で一挙にヨーロッパの大国として躍り出た今、芸術、科学技術、軍事技術等においてソ連邦の栄光と思われていたものが実はウクライナの業績であったというものも少なくない。 だからこそロシアとの関係はぎくしゃくするということなのかもしれませんが、ウクライナからしてみればもとはと言えばロシアに対してはこちらが本家筋、ロシアから見れば勝手に飛び出したかつてのソ連邦構成共和国との思いもあるとすると、両国の軋轢は根が深いのではとの感じもします。 なおこの本自体は黒海北方の大地の、スキタイ人が闊歩していた紀元前7~8世紀ごろから始まり現代に至る壮大な通史なのですが、なんと外務省の外交官であった著者が、たまたまウクライナへの赴任命令が出たことがきっかけで、日ごろなじみのないこの地を理解してもらえればとまとめ上げたとのこと。そのエネルギーに感動するとともに、こんな外交官がもっといてくれたら我々の国際理解ももっと進むのではなどと、ふと・・・ * ◆歴史の終わり 上・下 H27/11再読 ◆中世シチリア王国 H27/5月読◇ そうした中で、元はバイキングに源を持ち北フランスのノルマンディに住み着いていた人たちの中から、多くの若者たちが傭兵として南イタリアへと渡り頭角を現していき、その中の一人がシチリアの地に築いた国がやがてノルマン・シチリア王国となる。 この国、シチリアの地は地中海交易の富と人が集まり文化が接する要衝でもあり、歴代王は遠くの勢力や異邦の地より妃を求め、宮廷にはギリシャ語やアラビア語が飛び交い3つの文化が渦巻いていた。街では多様な民族がすみ分けて混在し、政治の要職にはギリシャ人やアラブ人が登用され、地中海の楽園と称されることが益々人や知識や財を引き付けていくことになり栄華を極めていく。結果、12世紀末の王フレデリクス(フリードリッヒ)二世はシチリア王、ドイツ王、神聖ローマ皇帝、さらにはエルサレム王までを兼ねるに至る。 ・・・といったことが書かれているのですが、この本の著者は放送大学の「地中海世界の歴史」の講師として、ほぼこの本の内容をあつく語っておられた方であり、読み進めるうちに先生の声が聞こえてきそうな気がするのですが、現在は既に閉講となっているのが残念です。 ところでフレデリックス二世がエルサレム王を兼ねるようになった経緯がすごい。殺戮や強奪で名高い十字軍の歴史の中で、何と彼が行った第6回十字軍では、軍隊は進めたが現地につくやいなやそこで馬を止め、延々とエルサレムを支配するアイユーブ朝のスルタンと難解な学術書簡の文通を始めて互いの教養の深さに感じ入り意気投合した結果、条約を結び無血でその地が解放されたとのこと。 時を経た21世紀の今、ヨーロッパ文明とイスラム圏の軋轢は益々泥沼の様相を呈していますが・・・歴史をたどればこうした時代もあったのだと、そしてそこに流れていたものは相手世界への深い知識、そして教養と寛容ではなかったかと思わせてくれる貴重な一冊です。 ◆NHK さかのぼり日本史 ⑦~⑩ H27/8読 全十冊の日本史“さかのぼり”のシリーズということで、⑦は戦国編、以下順次遡って⑧室町・鎌倉、⑨平安と続き⑩が奈良・飛鳥です。 放映番組を本に仕立てたもののようで、さすがNHK、各時代のターニングポイントとなった出来事が臨場感豊かな程よい文章量で解説されています。これなら老いて記憶機能が弱った私の脳にも時代のイメージがそれなりに浸み込んでいきそうです・・・ということで、多少再試験に臨む意欲が湧いてきた感じもし始めました。
by C_MANN3
| 2016-12-14 00:00
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